ナイチンゲール
千月 話子


あなたの花開くようなお口へ
鈴の音の鳴る金のスプーンに
一さじの杏ジャムを載せて
含ませたいの 
とても穏やかな様子で
わたくしの はやる気持ちを隠して


柔らかな顎に そ と手を添えてみたのよ
あなたは しかめ面して
いやいやを したのだけれど
温かさの通わない
わたくしの指先は 嘘つき
小さい あなたの
大きな 瞳が
『まだ だめよ』と言っていた


溢れ出る生命の雫が
窓ガラスを通り抜けて
日陰になった白い壁に
キラキラと チラチラと
瞬く光 瞬く・・・光り


鏡持つ子供等が
冬の日の晴れた太陽の温もりを
家々に届けながら
楽しげに 笑っていた


あなたの蕾のような お手手が
わたくしの整然とした指先に
そ と触れては やって来るのよ 
慈しみは いつも
尖った先端から温かさを連れて
内へ 外へ


その時はやがて わたくしの
桜色の手の中で
ミルクティーのように
柔らかな鈴の音の調べになって


あなたのカリフォルニア・オレンジのようなお口へ
光り射す 再びの杏ジャム
笑顔から 春の陽が零れて
ミツバチの羽音のように
わたくしと あなたの部屋に
早くも五月は やって来る


生と生が 跳ねるようにぶつかって
冬から春へ 春から初夏へと







自由詩 ナイチンゲール Copyright 千月 話子 2006-12-07 23:53:18縦
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