少年と金魚
青山スイ

マンションの鍵を開ける
左手にぶら下げた金魚
学校の友達と
お祭りに行ったんだ
金魚すくいでね
僕が取ったんだ
リビングの扉を開けると
ママはソファーで横になっていて
つまらなさそうにテレビを見ている
いつもと同じ光景
きっと疲れてるんだね
でもね、これを見てごらん
ねえママ見てよ
何だと思う
そう、金魚だよ
僕が取ったんだよ
一匹しか無理だったけど
僕が自分で取ったんだよ
ママは驚いて起き上がり
何考えてるの、こんな汚いもの
そう言って
金魚を取りあげて
地面に叩きつけた
また怒らせてしまったよ
ごめんね
ごめんねママ
何か別のモノにすればよかったんだ
水浸しの床の上で
ピチピチと金魚
やがて動かなくなった
早く捨てなさいって言われたけど
こっそり自分の部屋に持っていった

おやすみの時間になって
ベッドに潜り込む
動かなくなった金魚を
両手で優しく包み込んで
ゆっくりと目を閉じる
ああ、時間が過ぎていくよ
どうしてかなあ
眠れないよママ
大丈夫、明日になれば
きっと機嫌も直ってるさ
パパが居た時みたいに
一緒に笑ってくれるさ
どうしてかなあ
眠れないね金魚
そうだよ
僕が取ったんだよ
一匹しか無理だったけど
僕が自分で取ったんだよ


自由詩 少年と金魚 Copyright 青山スイ 2006-12-05 03:32:13縦
notebook Home 戻る  過去 未来