ひっつきむし
肉食のすずめ

ひっつきむし
晩秋の駐車場で
戯れたまま
動かない

夏の終わりに
青と白の小さな花を咲かせていた
ひっつきむしは

秋の初めに
実をつけて
小便する猫の後ろ足や
横を通るズボンの裾に
表面に生えた荒い毛を
ひょいと引っ掛けて
旅に出る

猫の後ろ足にひっつきむし
毛づくろいする猫に食われて糞になる
あるいは
曾祖父が生えていた
三年前の庭に戻って根を伸ばす

ズボンの裾にひっつきむし
洗濯機から下水道へ
食卓の灰皿から台所脇のゴミ箱へ
あるいは
高速で移動する車の窓から

遠い海へ


ひっつきむし
晩秋の駐車場で
戯れたまま
動かない
二ヶ月前の風に
周囲より遅れ気味の
青い柔らかな毛並みを
泳がせて
戯れたまま
旅に出るタイミングを逸してしまった
すでに
ひっつく力も失ってしまった
ので
互いにひっついて互いに
戯れたまま
その場で

その場で
連れの
用事の電話が終わるのを
眺めている
つまらぬ顔の
手持ち無沙汰の
ライターで燃やされながら
赤く
パシリ
と焼け落ちるときを


眺めている
動かない
ままで



自由詩 ひっつきむし Copyright 肉食のすずめ 2006-11-22 16:34:12
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