波、とはもう呼ばない
たりぽん(大理 奔)

あたたかな深い世界と
冷たく閉ざされた陸地の
あいだにおかれたからそれは
あなたに触れたときの私の肌
のように、あしもとでざわめく
むねのどこかで
小さなちいさな六分儀が
あやふやに極星を指すので
たどり着くこともなく

あいだにおかれたものを
波と呼んでしまえば
それはただの風景だから
けしてそのふるさとを
訊ねたりはしない
私は船であると決めたのだから
知りたいのは行方だけだ

あたたかく息苦しい世界は
沈み込むほどに重く
透明が屈折する青の宇宙との
あいだにおかれたから
時々するどくギラリとする
のは明るく何かが照らすだけで
それが懐かしいのは
きっと
深く想った、大切な名前を
口に出さないと
決めたから

   そんなに悲しく背を向けなくても
   あたりはどこも水平線で

魚になっても、鳥になっても
自由を手にすれば
二度と帰らない旅路で
私の肌のように
名付けないものが
ゆれる、ゆれる




自由詩 波、とはもう呼ばない Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-11-12 22:14:09縦
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