「 あたしのあだしのくん、一。 」
PULL.
あだしのくんのことを話そう。
あたしのあだしのくんは、
あたしの恋人である。
どんな恋人なのかといえば、
あたしのあだしのくんは、
彼氏というには顔が女っぽく、
彼女というには身も心も男っぽい。
そんな恋人である。
どれぐらい女っぽいのかといえば、
あたしとデートしている最中に、
他の男から言い寄られたり、
女優としてスカウトされたりするぐらい、
女っぽい。
どれぐらい男っぽいのかといえば、
そういう連中に向かって、
にっこり笑って、
中指を立てるぐらい、
男っぽい。
あたしのあだしのくんは人気者だ。
あだしのくんのまわりには、
いつも人がいて、
みんなあだしのくんを求めてる。
だけどあだしのくんが求めるのは、
あたしだけ。
あたしといるときだけ、
あだしのくんは、
ただのあだしのくんになる。
ただのあだしのくんは、
あたししか知らない。
あだしのくんは、
そういう恋人である。
そういう恋人であるあだしのくんは、
あたしのあだしのくんである。
なのであたしは、
あだしのくんの恋人なのである。
了。