回遊する少女3 (セロリ)
佐野権太

  あなた、セロリの透明なきりくちに
  恋をしたことはあって?



栗いろの瞳
かきあげる仕草
車椅子の少女は
細すぎる膝を斜めにそろえて



  やさしい朝のふりつもる
  白いキッチンは
  ひかりの子どもたちの寝息で
  満たされているの

  窓をあけて
  風たちの報告をきいたら
  野菜をとりだして
  手際よく
  しゃばしゃば起こしてあげるわ

  ひらかれてゆくセロリの誘惑には
  逆らってはいけないの
  レースの裾にくるまって
  ぼんやりしている寝ぼすけくんも
  ほら、せえたあの丘にのぼって
  のぞきこむわ

  セロリの子たちは
  つぎつぎと生まれるの
  つかまえようとしたら、だめよ
  ちいさくなって
  手をつないで
  ひろがってゆくの



少女は
華奢きゃしゃなあごを漂わせ
ゆっくりと瞳をとじる
時のとまった
静かなキッチンに
包まれてゆくように



  立つわ、きっと
  あなたの支えなしで
  ね
  そしたら
  よりかかっても
  いいのよ
  あるでしょう?
  あなたにも
  そんなとき









  あら、
  さくら色の耳をしているのね



  ねぇ、どうして
  泣いているの?


自由詩 回遊する少女3 (セロリ) Copyright 佐野権太 2006-11-08 09:41:07
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