ドリアンの正しい遊び方
千月 話子


 この町が余りに寂しそうなので
 一人遊びする 例えば


跳ね橋の上でドリアンが食べたい

皆に嫌われているので
誰も居ない明け方食べたい

橋のあっち側に好きな人がいるから
反対側で食べたい

橋のこっち側に意地悪な人がいるから
こっち側で食べる

フランスの橋の上で
ド・リアン伯爵が
アメリカの橋の上で
ドリー・アンという少女が
こっそりとドリアンを食べたように



日本の跳ね橋の上で
道理 杏という女が
ドリアンを食べようと
堅い実と痛い棘に
ナイフを射した瞬間
「もうすぐ船が通りますよ」と
警報が 鳴り出した
 世界が危機から救われたようだ


「諦めますね 私」と言って
彼女はドリアンを橋の割れ目に置いた
もうすぐ真ん中からパックリ割れて
橋のクジラの大きな口へ落ちてお行きよ


ゆっくりと ゆっくりと
開いていく跳ね橋の先端にドリアン
高級果物店で貴婦人のように大事にされたから
「わたし 死なないの」
意思表示するように天辺から
回って転がって回ってこっちにやって来るから
女は 転んで弾んで転んで
蹴っ飛ばして 生き延びた


強い芳香を放ち
気高く生きているドリアンよ
まだ眠っている商店街の
錆びた空気を追い払っておくれよ
三日三晩熱にうなされて
翌朝 この寂しい町が一変するまで


跳ね橋の上でドリアンを想う
お弔いは 食物連鎖
あらゆる生物に手を合わせ
賑やかな街でドリアン饅頭を食す


 道理 杏の娘は
 一人遊びが上手





自由詩 ドリアンの正しい遊び方 Copyright 千月 話子 2006-10-27 23:35:19縦
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