沈下橋
たりぽん(大理 奔)

いくつかの橋が
思い出せないでいる
名前を覚えなかった川の
こちらとあちらを
思い出せないかたちで
きっといまもつないでいる

完全なものが美しいと
君は言うけれど
不完全なものは
崩れていくから
愛おしいのだと
完全なものは
存在しないけど
不完全なものは
すぐ隣にあるから
愛おしいのだと

渡りきった後に
振り返らなければ
その橋がそこに
あったのか
無かったのかも
思い出せないまま
できそこないの私は
やはりいくつかの橋が
思い出せないのに

できそこないの記憶の
愛しい川のほとりで
ちぎれるまでに
手を振る君の姿まで
不完全であるように
名前は思い出さない

決して
つぶやいたりはしない





自由詩 沈下橋 Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-10-27 00:35:25
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