はしごの上 〜親父と息子〜
服部 剛
秋の日の涼しい夕暮れ
散歩から帰り家の門を開くと
上から ばっさ ばっさ と
木の枝が降ってくる
数日前66歳になった親父が
はしごの上から「お〜い」と呼ぶので
もうすぐ32歳の息子の僕も
手にしたはさみを両手で握り
はしごの下で負けじと
あちらこちらに飛び出た枝を
ばっさ ばっさ と切っていく
( 門前を
( 近所のおばちゃん
( にっこりほほえみ通り過ぎ
( 散歩中のでかい黒犬
( もの珍しそうに僕を見て
( 片足上げて門の足元に小便ひっかけ
( 飼い主は「あらごめんなさい」
( と去ってゆく・・・
「 落ちないように気をつけなよ〜 」
「 職場の図書館じゃ
もっと高いはしごに乗ってるから
大丈夫だよ 」
ばっさ ばっさ と降る枝を
ほうきで掃いてかき集め
ゴミ袋に放り込む
築30年
くたびれ始めたわが家の背後
低い山々の間に陽は沈み
( まだまだ親父の足元か・・・
とはしごの下でつぶやくと
電信柱の上にとまったカラスが
ひと声鳴いた