湯煙三昧
恋月 ぴの

松の湯


跳ねる湯船も恐ろしく
あれは白鯨モビーディック
いかつい背中の倶梨伽羅紋紋
あまりにも鮮やか過ぎて
タオルで隠さぬ前を横目に見れば
なぜか思わず猿山の猿気分
ラッキョの皮でもむいてみたい




竹の湯


ふくよかさ
それは人類のロマン
あのひとは気にしないよって
言ってくれたけど
本当なのかな
おんなのわたしだって
憧れてしまう
お母さんの優しさ
ふくよかさ
目の前でタップンゆれて
谷間にはじけるシャボン玉




梅の湯


遥か遠くの山を思うとき
不思議とあの山の姿を思い描いてしまう
優雅な裾野は赤く染まり
頂上には初冠雪目にも麗しく
湯煙の向こう側
白帆いっぱいに風をはらみ宝船は往く
えべっさんの左脇には何故か
鯛ならぬ、おいなりさん




湯煙三昧


男なら一度ぐらい覗いてみたいもの
でも、覗いたからって
どうってことなんか無いのに
それは男のロマン
厳然と聳え立つ非情の壁は
遠い昔の東西ベルリン
はたまたエレサレムだとしたら
今も嘆きの涙にくれているだろうけど
湯船に肩までゆったり浸かり
湯煙の向こう側
耳を澄ませば
どこを洗っているのやら


自由詩 湯煙三昧 Copyright 恋月 ぴの 2006-10-17 23:18:45
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
四文字熟語