不眠
田代深子

薄い光が
瞼の縁からにじみ
あまねく人々は夜をなくす
かくも永き不眠

頭骨の隙にガムテープを貼り
モジュラージャックから脊髄を
抜いて試みる

眠れない人々は言おうとするだろう
試みは
願いのありようだ が 試みるとき
願いは半ばついえているものだ と

かつて
夜はひとえに輝き
融けかけた氷片だけが枕上を過ごした
眠らぬ私に懲罰を
長いまつげにゆらぐ影 に
ともなうため毛布から
上半身を牽い た あしたには
鈍痛にあえぐとわかっていて

いまは
氷片からしたたる水が温みながら
こめかみをつたう
くったくない着信音
選択によってしか消えない音

光源からのがれ歩く正面に
透過していく自転車の錆びきった

そのうしろから
 密やかなものがある


いたわるかわいた声が
きこえたようだ しかし
どうしてそれを知りえるのか
不可視のものをどこに

夜の到来
を 待たねばならないひとえに
眠り 眠りにすべてを露わし
すべてから切り離される そこで
願いが融け残るならばそれでも
それだけで


自由詩 不眠 Copyright 田代深子 2004-03-18 06:58:12
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