神奈川県真鶴にて
恋月 ぴの

秋の海が寂しいのは
歩んできた人生
友と過ごした灼けるような喧騒も
土用波に掠られて
何事も無かったように
空を舞う海鳥
打ち寄せられた流木は
海鳴りの向う岸へ
置いてきた魂の重さだけ
軽くなって
海鳥は二度と
この浜には戻らないだろう
上空へと飛び立ったまま
スパイラルの揚力に両翼を拡げ
(言い残したことは無いのか
船泊まりに漂う
舶用機関の油膜に虹を見た
(船出は何時なのか
此処に留まっていれば
何があるのか気にしなければ
外海の厳しさを知らずに済む筈なのに
故郷を知らず
母の名も知らず
潮の交わるところまで
この船を出そうと言うのか
秋の海は寂しく
遠く沖の背は潮騒に酔う


自由詩 神奈川県真鶴にて Copyright 恋月 ぴの 2006-10-05 07:10:19
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