はじめの一歩 〜鎌倉の寺にて〜
服部 剛
北鎌倉の山寺の
境内を歩くと
左手に緑色の池が現れた
小石を一つ拾い
池へ投げる
緑の水面の真ん中に
水の花が開いて
広がる
( いつの日か花開く夢の序章は
( 小石を投げることから始まる
*
境内の茶室に坐り
瞳を閉じる
目の前は
高い谷間に架かる長い吊り橋の袂
決意の小さい一歩を踏み出そうと
大きく息を吸い込む
「夢の御国」は
風に揺れる吊り橋の彼方
橋の真ん中を無邪気な少年の幻が
楽しげに駆け抜けてゆく
抹茶を飲み終え
茶室を出る
*
境内を囲う
緑の木々の頭上を見上げると
風の手のひらが握る透明の絵筆が描く空の絵は
青から桃色となり
やがて夜空に一番星は瞬く
山へと続く石段の上から
鐘が鳴り、境内に響きわたる
夕刻
幹の捩れた梅の枝には
無数の蕾が春を待つ
*
北鎌倉の山寺の
澄んだ空気を吸い込み
境内の門を出ると
目の前は
高い谷間に架かる長い吊り橋の袂
遠く伸びる木目の板が
みしみしと音を立て
風に揺られている
眼下に揺らぐ足元に
小さい一歩を
そっと踏み出す