火、つけてやるから
虹村 凌

二年前にお前が泣きながら
眼を真っ赤にしながら
瞼を腫れさせながら
喉を枯らせながら
スクリーンを滲ませて
キーボードを叩いていたのを
今でも覚えている
彼氏に振られたばかりのお前は
酷く傷ついていた
冷蔵庫は彼氏だった男の好きなもので溢れ返っていて
喉を潤すものを取り出す事さえ躊躇わせた
優しくすればする程素直になっていくお前は
彼氏だった男を今でも大好きなんだと
何度も何度も繰り返す

いいって
もういいよ
眼、真っ赤なんだろ?
目薬あんのか?
瞼冷やせよ
腫れあがってブスになんぜ?
何だったら俺の胸で泣いてもいんだぜ
って遠すぎるんだったな
こんなときに嘘つかなくていいって
側にいたら本当にそうしてるなんて
いいから瞼冷やせよ
目薬させよ
うがいでもしてこいって
窓あけて新しい空気入れろよ
冷蔵庫の中のモンなんか
まとめて捨てちまえよ
いつまでだって話聞いてやるから
いつだって話聞いてやるから
今日だってお前と話せて
もう本当に嬉しかったんだぜ
ブスになったその瞼
一生懸命冷やしておけよ
そしたら
煙草に火 つけてやるから


自由詩 火、つけてやるから Copyright 虹村 凌 2006-09-22 13:55:05縦
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