遠雷
嘉村奈緒

 

刈り入れ時もよくわからないまま
彼女は優しい鎌をかける
遠雷
そのテンの首巻きはいい具合に違いなくて
ここいらは雪が笠のように積もるから
いつだって粗食で
ネジをまかれている
たくさんの機械人形が規則正しい日常だ
ほら粟だよ
ひえだよ
キイキイとしてごちそうさまだよ
遠雷
赤い長靴を履いて並ぶんだ!
銃がないから鍬を持つんだ!
だーんだーんだーん
土着!土着!どちゃく!
おまえ生きて帰ってきておくれ
おまえ生きて帰ってくるよ
坊やも小さい
小さい長靴
長靴は
赤い
遠雷に次ぐ
遠雷
彼女の鎌はとても優しい
俺は粗暴に鍬を振る
彼女の鎌はとても優しい
俺は粗暴に鍬を振る
一冬だ
世界が滅菌されていくような
泥土色の景色に滲む
それでいてこれが粟なのかひえなのか
けれども粗食だ
毎日手を合わせて願うんだ
小さく願うんだ
願いながら鍬を振るぜ
一等兵だぜ
雪が邪魔ならシャベルも使うぜ
ねえ坊やが喜ぶんですよ
見てくださいよ
でいんでいんでいんでいん
おまえ首に巻くものをやろうか
色の白いものがいいんじゃないかな
長毛のものはどうだろう
長毛よりも新しい鎌がありますように
小さく願う
でいんでいんでいん
彼女は優しいから鍬を持たないんだぜ
俺は粗暴だから鍬を持つんだ
並び終わったら行進をする
行進のあとを坊やがついてくる
坊やの長靴は無地だけど赤い
赤いは南天
たくさんの南天

遠くで




 


自由詩 遠雷 Copyright 嘉村奈緒 2006-09-21 19:27:50縦
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