アヴァロン
マッドビースト


つり革にぶら下がったスーツの男は
まるで死体のようだ
そのネクタイが不安だ
つり革に結び付けられそうなその細長いやつが不安だ
真夏の太陽が乾ききったヘチマにそれでもまだ容赦なく陽を降り注ぎ
ヘチマはもう皮だけの物体になってそれでもしょうがなくて
黙って耐えている
という顔だ

30代半ばの女が窮屈そうに長いすに腰掛けていて
化粧がもう大分とれて
顔がてかって
しかめっ面をしていて
まじもうむり
っていう感じだから
色っぽいね

朝九時から働いて
帰りの電車に乗って最寄駅で降りるのが夜の九時
駅前のコンビニエンスストアのネオンだけが浮かび上がっていて
あとは暗い道を歩く
違う世界に
ファンタジーに
迷い込みそうな気分になることが正直ある

部屋は狭い
溜まった洗濯物の汗と
カビの匂いがする
眠るのは死ぬことに近い
目を閉じて暫く死に
6時間後に生き返ろう

あの電車で乗り合わせた
ぎゅうぎゅう詰めの車両に乗り合わせた同士諸君も
きっと自分の墓所でしばらく死んでいる




未詩・独白 アヴァロン Copyright マッドビースト 2006-09-20 00:27:26縦
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