こころの力
恋月 ぴの

秋が訪れれば またひとつ
目じりに刻まれる年輪のようなもの
早いもので開け放した窓の外では
秋の虫たちが鳴き始めている
この様に季節が巡るのであれば
歳を重ねてしまうのも致し方無い事
抗っても隠し切れない過ぎし日々の痕跡を
湯船の中で取り繕ってはみても
湯上りのひとり寝は
かさかさと乾いた身体を蝕んでゆく
(ひと肌恋しいわけじゃなくて
衰えつつある身体のあげる悲鳴よりも
夜窓を渡る音色に耳を傾けていよう
わたしにとって許しがたいこと
それは我が身に感じる衰えよりも
こころが朽ちてしまうこと
忘却はこころを癒すとしても
わたしには忘れたくないものがある
そして沈み逝く船の羅針盤に自らを委ね
生の尽き果てる瞬間まで
総ての記憶をこころに刻み込みたい
それがいかほどの苦痛であるとしても
わたしは見つめていたい
確めていたい
わたしという人生の行く末
今年の秋も
幾つ台風が訪れるのだろうか
風雨に備えるのは早すぎることはない
せめてもと夏と秋の緩慢な境目を
指先で探ってみては
つづることばの在り様を
何処へと持って行きたい訳でもなく



自由詩 こころの力 Copyright 恋月 ぴの 2006-09-03 08:25:56縦
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