旅愁
前田ふむふむ

ひかりの葬列が瞳孔の砂浜に沈み、
溢れる夏が清涼な涙を流す。
新しく生まれた水彩画の冒頭を見つめながら、
わたしは、森の湧き水で掌を浸した
愁風の滴る夏の終わりを均等にまとめる。

青い寝台は遅く揺れる。
わたしの記憶の高さに揃えて。
遅い驟雨は、旅愁に、ひとたび甘い罠を仕掛けて、
わたしの躓いた夏を引き摺る重みを、
うすくなめされた秋にかさねてゆく。

その厚みを増してゆく、剥がれた夏のかなしみは、
うつむき夢想する。

若葉の萌える門出を瞬かせて、
群青の空に身をまかせて昇りつめた美しき幻影。
わずかに恋人のコスモスがうな垂れ、
美風に揺れて。
徐にあたまを上げる列車の姿態は、
温度計の熱を集めて、晩夏を轢く。

わたしは、浴び続ける、粉々に落下した、
仄かな痛みは、繰り返し秋の窓に、印刷され続けて、
街に散らばる清々しい眼差しのなかに、
列車とともに、溶けてゆく。

煙る低い生い立ちを並べた、夥しい色彩を立ち上げて、
秋の先達が走り出す。
西日に佇む稜線を飾る、眩い幸いを抱きとめて。
目線を下げると、満ち足りた姿の灯台が浮び、
羊水のなかで霞んでいる流れが、ふたたび、
明るさの高度をあげて、
走り続けた列車の旅は、足元を閉じる。

そのとき、わたしは新しく生まれる。生まれ続ける。
聡明にひろがる、凛とした秋の声を染めた、
喝采のなかで。


自由詩 旅愁 Copyright 前田ふむふむ 2006-08-31 22:17:43縦
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