アーリーバード
虹村 凌

陽も昇らぬうちに
何も知らない街に辿り着く
深夜の高速道路をタクシーで飛ばして
何も知らない街に辿り着く

都会生まれ都会育ち
それでも摩天楼は苦手だ
窓にともる一つ一つの光が
ひとつひとつのドラマが
余りにも冷たく
息苦しくなる錯覚
摩天楼なんてなくなればいい

冷たい空気と共に吸い込むタール
赤く燃えてゆくニコチン
立ち昇る煙は一瞬
何かの姿を描いて消えた

重たいスーツケースには
押しつぶされそうな希望と
巨大な不安が詰まっている
開けたら最後
まるでパンドラが開けた箱みたいに
収集がつかなくなりそうで
うつむいて煙草を吸うだけ

通り過ぎる人の影が
一瞬見違えて
思わず顔を上げてみるけど
やっぱりそこには誰もいない

何も知らない誰も知らない何も無い街で
摩天楼が殺しに来る錯覚
摩天楼に殺される錯覚
そびえる摩天楼はまるでいきり立った陰茎
這い出たトンネルはまるで君


自由詩 アーリーバード Copyright 虹村 凌 2006-08-28 11:29:25
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