寂しかったんだね
千月 話子

冷蔵庫から ほろ苦い
コーヒーゼリーを取り出した
冷風吹きすさぶ 一番上の段
甘いフレッシュの上で
体育座りしている
君を見つけたのは
午後3時

 ああ、寂しかったんだね
 今日はまだ 
 一言も 話してないんだ




絞り切れないモップから
水臭い匂いがした
淀んだ教室の窓を全開にして
掃除用具入れを開けると
隅っこのほうで
君が 泣いていた

 ああ、寂しかったんだね
 喧嘩した昨日 振り返らず
 振り返らずに 今日も過ごした



顔見知りと言葉を交わす 夕方
あちこちで談笑していた
朝よりも穏やかに歩く歩幅で
少し冷めた風を受けながら
行く 足元に
いつも触れるものは何か
今日こそはと 目を凝らす
同じ歩調で歩いているので
手を添えていた 懐かしい君と
目が合った

 ああ、寂しかったんだね
 バランスを崩して
 爪先で踏んづけた
 「きゅう」と鳴く君
 でも すぐに笑った
 恥ずかしそうに
 くしゃっと 笑った



本当は少しだけでも 話したいんだ
本当は もう怒ってないよと
手を繋ぎたいんだ
本当は 君に手紙を書きたかったんだ
いつも いつも いつも



ああ、寂しかったんだね 私達
分かり合えた 今日の風は爽やかに吹き
何となく 思ったんだ

秋の夕暮れは
心 健やかな時に見るのがいいと

君もきっと そう思うよね







自由詩 寂しかったんだね Copyright 千月 話子 2006-08-24 23:27:49縦
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