月面観測
嘉野千尋


   月ではまだ
   冬の初めで季節が
   止まっているようだった


   浅い眠りの合間に
   この頃よく、夢を見る
   凍えたままの月面で
   あなたをこの腕で抱きしめる
   そんな、夢を


   望遠鏡を覗いては
   昇りきる前の月を探した
   傷ついたままの姿を見ていたら
   あなたを想わずにはいられなかった


   磁気嵐の夜に
   瞳を閉じて耳を澄ましている
   ふと途絶える衛星からの電波
   流星が夜空を裂いていく音
   あなたの呼ぶ声
   幻の


   望遠鏡を覗くその一瞬に、いつも思う
   あなたを愛するこの心が
   どうかわたしから
   あなたを奪っていきますように


   月ではまだ冬の初めで
   季節が止まっているようだった



自由詩 月面観測 Copyright 嘉野千尋 2006-08-13 19:50:21
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