続・親父の続き
虹村 凌

俺は前回、「親父に恐怖心を植え付けられ、反抗をしなかった」、と書いた。



俺は中学生に上がる前位から、親父が居なければ生活出来ない事を知っていた。
そして親父は筋の通らない事を一切認めない事を知っていた。
だからもし私が少しでも道を踏み外せば、
即座に私を見放し、とことん墜ち零れて行くか、野垂れ死ぬのが関の山。

もしくはヴォコヴォコに殴られて病院送りか死ぬかだ。
真面目な話をしているのだ。
古風な親父は、何も認めないのである。

もし俺が喧嘩で勝てるような親父だったら、状況は違っただろう。
ハゲで貧弱で情けないメガネのクソ親父だったら、
喧嘩で勝って、俺はアウトローな奴になっていただろうと思う。
今はそうならなくて良かったと思う。

しかし実際の親父は、元野球部員で腹筋が12個に割れていた記録を持つ体育会系で、
どうでもいい事だがベンチで甲子園出場経験者で、
俺が中学生の頃はプロパンガスボンベを余裕で運ぶ程の体力を持ち、
俺よりゆうに15センチ以上、体重は40?以上違う相手なのだ。
格闘技経験者ならわかるだろう、この差がいかに大きいか。

「1?違えばその差は死をもたらす可能性すらある」
と極真の大山巨匠は言った(筈だ)。
40?なんてありえねぇ差だろう。勝てる喧嘩じゃねぇ。

俺は親父に反抗する事の愚かさを反抗する前に知っていた。
そして負け戦を望んでしてのける程の度胸は無い。
無難に生きていければ良いのだ。そう考えていた。

「自分が間違えて無いと思ったら最後まで戦え」と親父はいったが、
それをさせなかったのは親父だ。
徹底的なまでに俺は間違え、出来ない、駄目な奴だった。
そんな俺に親父は言い続けてきた。
「このままじゃお前はアウトローにしかならない。どうするんだ?」って。

どんどん俺は追い込まれてゆく。
親父は俺にアウトローになって欲しくないのは理解出来る。
しかし、親父の言葉は俺を責め続け、俺は戸惑い続けた。

今でも俺がツッパリや不良に憧れに似た視線を持つのは、
昔俺がなりたかった姿だからなんだと思う。

しかし憧れは憧れのまま、俺は成長した。
反抗期を迎える事もなく成長した。
反抗期が何か知らなかった。
もし俺が反抗をしていたら、何かを分かり合えたのだろうか。
…否、それは無いだろう。
俺と親父の考えは180度違うのだ。
50年間生きてきた親父の考えを、
21年間しか生きていない…親父の半分も生きていない俺が変えようがある筈が無い。
諦めでは無い。事実だ。

親父「自分が正しい」と思っている。全てにおいてそう思っている。
俺はそうは思っていない。それどころか「俺は間違った人間である」と思っている。
俺が「正解」である例はかなり稀なのだ。
親父は俺から自信を奪い去った。自尊心すら削り取った。

笑ってしまうぜ。


それでも、21年間も生かしてくれて感謝してるんだ。
学校に行かせてくれて感謝してるんだ。

だけど、やっぱり納得出来ないよな。
コメントに、「母親が俺に優しかった分、親父は俺に厳しいのかもしれない」的な、
そんな返事を書いたけれど、どうなんだろう。
確かに母親は俺に優しく、甘かった。
その分、親父は反動で厳しくなったのだろうか。

乳房に埋もれて眠りたい。


散文(批評随筆小説等) 続・親父の続き Copyright 虹村 凌 2006-08-11 22:14:17
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