夕焼けのカレットさん
AB(なかほど)

   


石鹸のにおい
休み時間の度に手を洗っていた娘がいた
両手で水をすくい
端からこぼれ落ちるところから飲んでいく
こんなふうに
僕の書く文章なんて
いつも隙間だらけの言葉足らずで
伝えたい人には伝わらず
愛している人達には気づかれもしないように
それでも
その足りないとこから
夕焼けの空のドアが開いている
と思うんだ
初めから満たされている物を欲しがり
リライアビリティーなんて言葉が
信頼の本当の意味も知らず流行る世の中でも
僕の言葉には隙間
あれ

放課後
あの娘のエクボ
照らされ透ける後ろ髪
水飲み場の石鹸のにおい
名前も帰り道も
途中までしか知らなかった
あの空の色が
やがてにじんで来るように
ひとつずつでも
足してゆければと思うんだ
ほら
夕焼けのカレットさん
まだここんとこにも隙間が





カレット=caret


自由詩 夕焼けのカレットさん Copyright AB(なかほど) 2004-03-04 07:46:28
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夕焼けが足りない