盂蘭盆
落合朱美

お帰りですか、と
聞くとそのひと
ええ、と
小さく頷いて
穏やかな微笑をうかべた

鬱蒼と茂る緑葉の下で
木洩れ日が描くまだら模様が
白い肌をよけいに引き立たせ
蝉しぐれが遠くに聴こえた

子どもが一人おりましたの、と
そのひとは云ったがそれは
誰に向けられた言葉でもないようで
女の子なんですの
もういい年頃になりましたのよ、と
嬉しそうに語れば語るほどその声は
なぜか哀しい歌に聴こえた


ひとすじの風が吹きぬけ樹木が鳴る
あまりにもひんやりとした感触に
思わず梢を見上げた私は ふと思う

寺町の樹木はどうして
こうも緑が濃いのだろう


では、と
声がしたようで
見遣ればもうそのひと
うっすらと白い靄につつまれて
木立の中へと消えてゆく


溢れんばかりに響く蝉しぐれの中を
小菊の束をかかえた少女が歩く

麦わら帽子のリボンが

ゆれた








自由詩 盂蘭盆 Copyright 落合朱美 2006-08-05 06:02:51縦
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