サミーラ
恋月 ぴの

わたしがサミーラと知り合ったのは
見知らぬ国への好奇心と
ちょっとした向学心
辞書を引き引き書いた拙い手紙を
赤と青の縁飾りも可愛い封筒に入れて
生まれてはじめての海外文通
切手一枚でつながる遠い国の友だち
暫くして受け取った返事の中で
彼女はフランス風の瀟洒な街並みと
そこに暮す人々の活気を教えてくれた
多様な神々のくつろぐカフェで
彼女はわたし宛の返事を書いてくれた
やがて彼女は学校を卒業すると
両親の決めた相手と結婚して
子どもをふたり授かった
手紙に添えてあったスナップ写真には
幸せいっぱいの笑顔がこぼれていた
いつ頃からだっただろうか
そんな彼女とも次第に疎遠となって
机の引出しには書きかけの便箋と
使わなくなった一冊のアラビア語辞書
サミーラ
それでもわたしは忘れてはいないよ
あなたとの楽しかった思い出を
サミーラ
それでもわたしは毎夜祈っているよ
あなたとあなたの家族の幸せを
その昔フェニキア人が泉の街と名づけた
瀟洒な街並みは戦火に廃墟と化し
諍いを止めぬ者共の狭間で生きている
あなた方がどうか無事でありますように
切手一枚でつながった遠い国から
わたしは時を旅する月明かりに託します
アッ・サラーム アライクム


自由詩 サミーラ Copyright 恋月 ぴの 2006-08-03 23:26:07
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わたしたちの8月15日