むかしばなし3
佐々宝砂

年寄ると
雌牛の乳房はずるりとながい
地面につきそうなくらい
搾乳器にもかけにくい

隣の牛に踏まれると
乳房が裂ける
裂けると
いつものおじさんがきた

麻酔したのかしないのか
わたしは知らない
裂けた乳房は
ほそい針金で縫われた
抜糸はおとうさんが自分でやった

乳房が裂けるときも
縫われるときも
牛バエ飛び交う牛舎のなかで
牛糞くさいしっぽが揺れて

大きな大きな目は
いつも濡れていた
長い長いまつげは
いつもふるえていた
黒い黒い瞳は
いつも柵の向こうをみていた



自由詩 むかしばなし3 Copyright 佐々宝砂 2004-03-03 17:22:54
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