もう食べれない ぷらとにっく 
七尾きよし

望めども望まねども
遠いみちのり
果たす夢は現実から遠のいていく
その実現が難しいというわけではない
世間の常識という幻想が生み出す幻想社会としての
現実が水平線の果てへと消えていく

恋が生まれ恋がつぶれ
恋が生まれ恋がつぶれ
恋と恋の間で声もあげれず
押しつぶされていく
こころ

を表現したいと思う

〈1〉
声にはっきりとした輪郭を持たせることが怖い
そうすると
ぼくが言ったことが現実となってしまうからだ
今まで何人のカタキが命を失い
何人の気に食わないやつらが身体の一部を失っただろう
それが起こるたびにぼくは恐怖する
意識というものは意識されるものだけでできてはいない
ほんのたまにひょっと浮かんでくる
煮えたぎった油に溶かされた朱蝋燭のような
意識の海にまだら状に溶け込んだもの
いのちあるものを憎むこころ
ひょっと浮かんだかと思うと次の瞬間には姿を消している
無意識の深海を泳ぐこの化け物を捕まえる術を知らない
奴は獲物が近づいてくるのをじっと待ち
その時が来るのを狂喜とともに待ち続けている

愛のことばを声にするとき
ぼくは決してこえに力をこめることをしない
奴に身体をのっとられることを何よりも恐れているからだ
愛のことばの陰に捕まえた獲物の髄までもしゃぶりつくす
貪欲な奴の存在を知っているからだ
限りなく臆病で絶望的に誰かの手を求めている

〈2〉
珊瑚礁で野糞する方への諸注意
少なくとも脱糞3日前からは添加物の入ったものは食べないように
なるべくお野菜中心の食事を心がけてくださいね
豆類はよく噛んでめしあがれ
十分に水分をとっておいてね 硬便はなかなかほぐれないですから
以上珊瑚礁の魚たちの食事を快適にするためのマニュアルでした

〈3〉
友人にしかなりようのない人に恋してると思い込みたい症候群

性欲とは何かということと深いつながりがあります
あなたは女だったら誰とでも性交できますか
同じように性的興奮をもよおすと信じてますか
一度試してごらんなさい
性欲というものは誰に対してでも起こるものではありません
妄想の世界へ逃避しているときを除いてですが


〈4〉
いったい何を吐き出したいのだろう

なんだか胸の中がむかむかするのだ
何かを求めて乾いているのか
それとも単なる気のせいなのか
それともまだ気づいていない慢性疾患からくるものだろうか
頭に浮かんではひゅうと消えていく顔をなんとか固定させる
女の顔だ
この人は今おらが抱えているこのむかむか感と何か関係があるのだろうか
その因果関係を証明せよ どうやって よくわからん
とりあえず オナニーすればよい オナニーしてすっきりして
まだむかむかしていたら 。。。。  知らん

そもそもなぜ夜眠ることができないのだ
さっさと早く寝てしまえばすべて解決するんじゃないのか
そんで昼間汗を流して働け んで、飲んで寝ろ
まずそうしてみて 。。。。 それでもまだむかむかしてたら
おりゃ 知らん
まあさっさと眠りなさい 寝れなきゃおなかいっぱい飯食べろ
太るって そんなこたあ知らん

〈5〉
恋をする若さとはどんなものかと考えてみた
二十代のころのぼくはいつも気づいたら恋をしていた
その多くが、いや、すべてが後味の悪い飲み物でしかなく
年がら年中すかしている腹の足しにはちっともならなかった
それでも年がら年中ぼくは恋をしていた
熱のようなもの
一時だけ風邪をひいたみたいなものだという意味で熱にたとえられ
身体を揺り動かすほど心を乱れさせる圧倒的な熱量を持った感情
という意味でも恋は熱のようなものとたとえられる
「不可抗力」という言葉がふさわしいと思う

だが、ある時点からぼくの恋は計画的なものへと変貌する
熱にうかされとまどう青年は
熱を得るために恋をする中年へと姿を変える
どこをどう叩いても熱き血潮など湧き出ることはない
確信を持ってそう言う中年男は計画的恋の実行犯
身体の熱を保つために、身体を暖めるために
人生の冬の時代が来る前に人は恋で暖をとる
十分すぎるほどしらけた恋は、ぬるま湯のようで
いつまでたっても温まらないよと中年男は愚痴を言う



もう食べれない
満腹感の中で
身をくねらせ
吐きだされる息のなか満たされる
ぷらとにっく
古時計がぼんぼん鳴らす
うす暗がり
オレンジ色に肌を染めるきみ
長細い瞳の目じりが揺れ
肉欲は食欲のかなたへ
もう食べれない
ぷらとにっく



自由詩 もう食べれない ぷらとにっく  Copyright 七尾きよし 2006-08-02 18:44:56
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