病院
さち

待合室には
女の子を連れた母親と
少し離れたところに
人の良さそうなおばあさんが
座っていた

熱のせいでボゥッとなった私の目も耳も
何も見ようとも聞こうともしていなかった

「お子さんはお一人?」
たしか おばあさんはそう聞いたんだ
母親がなんと返事をしたかまでは覚えていない
ただ
その一言がキッカケで
おばあさんと母親の会話は続いたようだった

熱のせいでボゥッとなった私は
待合室でよく聞かれる
当たり障りのない世間話だ、と
BGMのように聞き流していた

優しそうな若い女性が
座った私の前を横切って
おばあさんに声をかけた
「さぁ、行きましょうか」



「行く?」

おばあさんは親子のほうに小首を傾げて
誘うように聞いたんだ
まるで無邪気に可愛い声で


「行く?」
その声だけが
どうしてだろう
ぼやけてた私の意識の中に
やけに響いて
どうしてだろう
熱のせいじゃないだろうけど
涙がこぼれてよわったんだ


自由詩 病院 Copyright さち 2006-08-01 17:45:21
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