ひとしずくの水彩
たりぽん(大理 奔)

海という隙間で息も絶えだえに
船がただひとつ進めない方角があり
羅針盤の鏡にこうして映すと
宇宙も空も無くなる時間なのに鏡は
越えられない境界線を示すだけなのです

宇宙に似た深い暗闇を
生まれながらに知っています
足元に広がる波打つ境界の
無慈悲で暖かくて塩辛い
涙の吹き溜まりのような絶望のふちを

どこまでも沈んでいけば
だれよりも孤独を手に入れるのです
空に沈んだら燃え尽きて
まぶしくてせつなくて
夢のおわりを抱きしめられないから

どこまでも沈んでいこう
満月が差し込むその巡りまで
そうしてぎゅっと抱きしめたものを
透明な血に満たされた砂漠の底で
ただひとつの方向に解きはなてば

星を透かした波打つ鏡の天井へ
静かに立ちのぼって
小さなあぶくがひとつはじけ
また、ひとつはじけて
手放した夢を空にかえすのです

そして揺らめく水面へと
降るしきる雨の過程を想い
頬を伝い流れ出すものと雨粒で
海という暗闇の隙間に

ちいさな世界を
まあるくちいさく描くのです
まあるく、ちいさく、描くのです



自由詩 ひとしずくの水彩 Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-07-31 19:27:58縦
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