フラグメンツ(リプライズ) #61〜70
大覚アキラ
#61
驚異的な安定感と正確さをもって
一本の真っ直ぐな線を
真っ白な紙に引く
その限りなく単純な美しさ
全く無駄のない澄み切った一瞬
そんな生き方が欲しいのだ
#62
胸の真ん中
胃の少し上のあたりに
彗星の破片が埋まってる
中学生のとき
真夜中に家を抜け出して
彼女と二人
海まで自転車で行ったとき
ふざけすぎて足を滑らせて
防波堤から海に落ちて
その時
飲み込んじゃったやつ
暗いところに行くと
光るんだ
胸の奥で
いつか
見せてあげるよ
#63
久しぶりに会ったら
あいつ
嘘みたいに丸くなってて
「よぉ 久しぶり」って
肩をたたいたら
そのまま転がって
行っちゃったよ
#64
ストリーム レッド
スピード オレンジ
スプラッシュ イエロー
スパイラル グリーン
ストレンジ ブルー
スパーク ディープブルー
スリリング パープル
#65
今日はとことん低空飛行
地面スレスレ
いまにも不時着しそう
メイディ!
メイディ!
ケータイで呼びかけても
知らない女が冷たい声で
オキャクサマノ
オカケニナッタ
デンワハ
デンパノ
トドカナイ
トコロニ
オラレルカ
デンゲンガ
ハイッテイナイタメ
カカリマセン
応答せよ!
応答せよ!
どうせ墜落するなら
あなたの真上に
落っこちてしまいたい
#66
美しさ
ということの
意味について考える
考える
考える
考える
考え続ける
考える
考える
考える
まだ考える
考える
考える
考える
ずっと考える
考える
考える
考える
おなかが
痛くなってきたので
考えるのをやめる
#67
土曜日の夕方の
混みあったスーパーで
桃を見た
透明な産毛を
叩きつける空調の風に
なびかせながら
透明なパックに
4個ずつ
きちんと並んだ桃
そういえば
あの人の肌も
こんなきれいな色だった
きっと
甘い味が
するんだろう
#68
詩人が病んでいるときは
その国が病んでいるのだ
という詩人の叫びを聴いた
それがもしほんとうなら
ぼくはとても悲しいです
#69
蒸し暑い地下街の
往来の真ん中で
身体中で泣きじゃくる
小さな女の子
あんなふうに
泣きたい
人目も気にせず
なりふり構わず
後先のことなど
爪の先ほども考えないで
大声をあげて
泣きじゃくりたい
ほんとうは
あなただって
そう思っているのでしょう
#70
はやく背中から
羽根が生えてこないかなあ
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