呼声
服部 剛

夏の涼しい夕暮れに 
恋の病にうつむく友と 
噴水前の石段に腰掛けていた 

( 左手の薬指に指輪をした
( 女に惚れた友が 
( 気づかぬうちにかけている 
( 魔法の眼鏡は外せない 

( 僕等の前に独り立つ 
( 大きい緑の木だけが 
( 風に揺られながら 
( 孤独者の知彗ちすいを唄っていた 

一途な恋をする友と 
恋を忘れた僕の間の 
寂しい隙間に 
夕涼みの風が吹き抜けた 

目の前を流れる無数の足に紛れ 
若い妊婦と手を繋ぐ夫が通り過ぎ 
父の背中を追いかけ走る少年が通り過ぎ 


首筋にぽつりと雨が落ちる 

僕の鞄に入った折り畳み傘は穴が
役に立たない 


( 隣に座る友の胸中はスコール 
( ずぶ濡れのまま愛する女を探し 
( 暗い森林を彷徨さまよっている 

( 遠い木々の隙間に 
( うなだれ歩く姿を見かけた

( 平凡な日常への出口に立つ僕は 
( 大声で、友の名を呼ぶ 








自由詩 呼声 Copyright 服部 剛 2006-07-30 20:55:30縦
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