波打ち際のホテルにて
bjorn

波打ち際に立つホテルで
あなたをただ待っていたい
薄暗いバーのカウンターで
透ける尾を揺らす熱帯魚と
ピアノが奏でるゆるやかな旋律と

ガラス張りの大きな窓からは
海とまたたく明かりが見えるの
月と星の光を映す波を眺めながら
あなたが来るのを
ただ一人待っていたいの

スカイブルーのカクテルを揺らしているの
小さな泡が次々昇っては消えていく
それはまるで目の前に広がる海のようで

もしもあなたが来てくれたら
私は何も言わないで
ただあなたに笑いかけるの
こんばんはって
ちょっと小さな声で挨拶するの
いつもみたいに

いつもみたいに
きっとまっすぐその目を見れないの
少しうつむいてしまうの
いっぱい瞬きをして
涙がこぼれないようにするの

サンダルを脱いで
打ち寄せる波に足をぬらして
二人砂浜を歩くの
月明かりの下で
潮風に髪をなぶらせて
ワンピースのすそを少し持ち上げて

足跡は波が消してしまうの
私たちがそこにいた証は
きっと何も残らない
あなたのこころの中に
何も残らないのと同じように

少し後ろを歩くあなたを
ときどき振り返ってみるの
あなたはあの
私のこころを少しざわつかせるまなざしで
私を眺めているの

ただ笑いあいたいの
それだけでもういいの
あなたのその腕はあたたかくて
まるで小さな子どものように
哀しみや痛みはもう何もないように
そんな風におやすみを言って

朝がくる前には
一人窓から海を眺めているの
きっと夜明け前に目が覚めてしまうから
もしも東向きの部屋だったら
暗い藍色の空が
少しずつ日の光に破られていくのを

波のひとつひとつがオレンジ色に輝いて
永遠へつながる道みたいに見えるのを
星がうすれて消えてしまうのを
まるで二度とない幻に出逢ったように
まるでこんな奇跡はないってくらい真剣に
息をつめて祈るように
ただ静かに見つめているの

そして同じ場所で過ごしたのに
あまりにも遠く離れた
お互い別々のものを選んだ
すぐ隣に眠っているのに
あまりにも遠く届かない
あなたのこころを思うの


自由詩 波打ち際のホテルにて Copyright bjorn 2006-07-17 21:12:40
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