夏景色
落合朱美


ショーウィンドウを飾る
真夏のアイテムたちは 
誇らしげに季節を謳歌する

けれどそこには灼熱の光線も 
砂浜の輝きも届きはしなくて 
街の雑踏はただ息苦しくて 

日焼けした肌を露出して 
街を闊歩する少女たちは 
目に眩しくてすこし恨めしい 

人いきれに酔いながら 
思い出をつくることもできずに  
通り過ぎるだけの夏


あの人とバカンスを過ごしたのは 
あれはもう何年前のことだったろう 

海辺のホテルの十二階の窓から 
波間に見え隠れする人々を
まるでディズニーの映画のようだと
笑いながら見ていた

ベランダを吹いてゆく風は
潮の香りと太陽の粒子を孕んで
真昼の星のように煌めいて見えた

そっと抱かれた背中も 
耳元に感じた息遣いも 
記憶の彼方で手を振るだけで 
あんなに満ちたりた夏には 
もう戻れない

 
素足の肌ざわりを忘れたハイヒールの踵が 
軟らかいアスファルトを突き刺して 
私の夏景色を消し去ってゆく





自由詩 夏景色 Copyright 落合朱美 2006-07-16 12:02:59縦
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