Make it!
マッドビースト


 車両の硝子越しに夜の街を眺めてぼんやりと揺られていた
車両が地下にもぐると街が写っていたところに不意に自分の顔が重なって見えた
 疲れた顔だ 夏なので汗ばんでいたし
眠そうな目は滲んだ青いアイシャドウの重みに耐えられないように見えた
不意を付かれたとはいえ なんとも情けない顔だと思った
 同じ女なのにどうしてお前はそんな涼しい顔をしているのだろう
地下の駅を出て再び地上に出た車両の窓からは
また同じ位置に月が見えた

メーキット メーキット
絡みつく熱帯夜
うまくいかない日々 日々 気がつけばまた夜だ


 携帯電話を遠くへ投げ捨ててしまいたい衝動は
だれにでもあるものだ それは現代に残る革命の因子だ
しかし滅多にそうするひとはいない これは新しい倫理の定義だ
どこにいても連絡がつくのだ 不在などない
 尋ね人に会えずしかたなく出直すという"間"は永久に失われた
我々は常に居る 常に応える 我々の"一部"は永久に失われた
残ったのは缶詰にされた死んだ果実
おかしな甘さのパイナップルなのだ
奇妙な歯ざわりのピーチなのだ
いつもスーパーで買えるし妙に発色がいいのが売りだ

 ときどき駅の線路には粉々になった携帯電話の破片が見える
きっと女の携帯で その女は泣いていたのだ
しかしまた朝がきて その女は化粧をしてでかけたのだ
この街を出ることはなく
チタンで覆われたバッテリーの中のリチウムのように冷たく仕切りなおす

メーキット メーキット
憧れとは遠い現実
うまくいかない日々 日々 気がつけばもう朝だ


未詩・独白 Make it! Copyright マッドビースト 2006-07-13 00:10:51縦
notebook Home 戻る  過去 未来