リトグラフ
嘉村奈緒

 

あたりさわりのない野辺は
どの角度から見ても真直ぐだった
だから
生き物の骨組みはどこからでも見れた


胸のあたりの骨の向こうは
いつも何かが始まって
終わっていた
始まる瞬間や終わる瞬間は決まって
きしきしと鳴っていた
そこに枯れ枝をそよがせると
小さな花火が起こるので
やるせない日よりにはそうやって過ごした
なぜだか
骨の向こうには野辺が見あたらなくて
それがとてもつまらなく感じた



かの骨の軋みよりも
静かな竜巻が気の遠いほうから来て
いっさいがっさいを含み
また果てに去ったあとには
少しゆがんでいる野辺がそこにあった
むきだした私は
自分の骨を数えはじめているうちに
あれの向こうに野辺が見あたらなかった事を思い出したが
きしきしと鳴るので
ああ、もう花火は見れないのだなと
ちいさな目を閉じた



 


自由詩 リトグラフ Copyright 嘉村奈緒 2006-07-09 23:43:50
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