夫人の言葉
きりえしふみ

わたしは 常時(いつ)も香っていてあげよう
発酵した 上質のワインのように
ふわふわ ぷかぷか
君たちの家に 漂っていてあげよう
「わたし」を嗅ぐだけで 毎日君たちが
ああ やっと帰って来たのだ と
ほうっと 息を吐(つ)けるように
毎晩 寝床で深い眠りに癒されるように

そう願えばこそ わたしは
常時も笑っているのが 一番の仕事に思える

 そうよ わたしは常に 常に

常時もわたしは 柔らかな 和やかな花でいよう
出来得る限りは 悄気ない花でいよう
花びらの一枚一枚に刻まれた ほんの細やかな皺でさえ
笑い皺であるように
この目や 口元に
仄かな微笑を湛えていてあげよう

そうして 静かで優しい音楽のように
幾ら聴いても 飽きの来ない名曲のように
暮れ泥む夕日のように ただ穏やかに
ただ密やかに 可愛い子供らを 愛しい我が家を
包(くる)めていてあげよう
石鹸や味噌汁の 日常の匂いとなって

(c)shifumi_kirye 2006/06/22


自由詩 夫人の言葉 Copyright きりえしふみ 2006-06-28 18:50:16
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