*詩禁止令第三条*
かおる


バルカン州バーゲン群河馬市に禁止令が乱発され始めたのは第九代市長、スティーブ・マグワイヤーが就任して、やっと半年が過ぎてからである。挑発的なスローガンを愛している彼の就任演説では七五調の景気のいいリズムにのせ、韻を踏みまくってみせていた。先代市長、鼻芋与一の少年買春を47人の若手議員とともに現場に押し入って暴露し(神楽堂ホテル事件)、「河馬義士いろは48人衆」とまで呼ばれたマグワイヤー派が市議を牛耳ってから、種々の言論統制とも取れる条例が施行されだしたから堪らない。
まず五七調か七五調のリズムに乗らないとしゃべる事叶わず、文語調の詩歌の教則本がバカ売れしたまでは良かったのである。少子化対策として窓辺で愛のバラードを歌う事も義務づけられ、デートの誘いはまず恋文を投げ入れてからと言うご大層な事に相成った。こうなってくると特例措置や出来合いの詩が金よりも高い値で取引され、ブラックマーケットが出現し、まがい物を掴まされる素人が続出。
闇市場を暗躍する既存の詩人、ポエマーを捕まえるべく特攻警察も組織され、魔女狩りよろしくガリ版で客寄せの詩集を刷っていた吟遊詩人を血祭りに掲げた。しかし、吟遊詩人は旅芸人な訳であるから治外法権という保護下にあり、市中を引き回された後、過分の手当をもらいこっそり領地外に放たれていた。隠れポエマーを探す為の踏み絵を何にするべきか、まだ決まっていない。情報網がこれだけ完備された昨今、地球の片隅のゴルコンダ王国から罰則規制すれすれのものを配信するのは赤子の手を捻るようなものだという事に気がついていないのは騙される人の良い市民だけである。


自由詩 *詩禁止令第三条* Copyright かおる 2006-06-28 17:12:06
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