名水
tonpekep

廊下を走ってはいけませんと
先生は叫んでいる
たくさんの足が走り回っている
この学校には
足しかなくて
聞こえることはなかった

旅に出るようなほど遠い
校庭の角に植えた
桃の花から
たくさんの青虫が生まれた

青虫はいつまでも大きくなった
いつまでも大きくなりすぎて
校庭の角には
山脈のようなものが連なっていた

飛べることを思い出した山脈は
色づき初めて
背中を破く夏の音があちこちでする

たくさんの山脈が
校舎の窓から入り込んでくるとき
教室に入り込んだ山脈は
次々と水滴になって
教室を満たした

やがてそれぞれの
教室の戸が開くとき
廊下は名水のような川になった
先生は叫んでいる
たくさんの足は水飛沫を上げている


自由詩 名水 Copyright tonpekep 2006-06-27 10:08:55
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