悲報
千波 一也


吐息に曇る夜の硝子に
時計の文字盤は
逆行をみせて
捨てた指輪の光沢の
おぼろな記憶さながらに
銀河の揺らめく
午前零時


涸れてしまう代わりに涙は
こぼれる理由を失ってしまった
もっとも冷たい満ち潮の
はじまりの音を
聴いた日に



暗がりのなかで煙草は
火種があかるく
それは
観測されることを必要としない活火山
赤々と生きて
潔く灰となる


窓辺に構える椅子の角度は
ほぼ決まっている
街路樹がそれを見たなら
果たして幾つの
葉を散らすだろう



吐息に曇る夜の硝子に
時計の文字盤は
逆行をみせて
ひとつの輪郭が
穏やかに崩れてゆこうとする
それを見届けることは
夢見の改めにつながるけれど
途中で断つのが
毎夜の慣わし

報いのなかに救われたいから
眠りをまもる


報いのなかに

救われたい




自由詩 悲報 Copyright 千波 一也 2006-06-26 16:49:16
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