ひびき ひびき
木立 悟




布の風が樹々を伝い
夜の空を見つめている
蜘蛛のかたちをした声が
枝をめぐり すれちがい
会話ではない会話を残し
夜の空を昇りゆく


雲に映る歪んだ輪から
光と言葉の鳥は落ち
風をつくり水をつくり
声の糸に編まれた地に着き
水紋と波のはじまりになる


器をのせた舟が出て
器を水に沈めてゆく
器は羽でできている
器は月を見つめている
器は蜘蛛を知っている


外灯のない道の宙空に
水滴の傷がつづいている
傷の光は直ぐに降り
たくさんの小さな影をつくる
人と同じ数の小石
街と同じ数の影
影を持たない幾つかの小石
誰もいない道の影


ある日あふれた水に流され
いのちが消えてしまったあとに
ただ残され削られた土の下から
器のひびきだけが現われて
月の言葉や糸の言葉
最後に触れた指の言葉を唱っては
羽にもどり飛び去ってゆく


のどがかわかないか
静かな夜には
のどがかわかないか
風が 言葉が
樹々のもとへと落ちるから
はじまりの光が
はじまりの水が
蜘蛛のかたちを憶い出すから












自由詩 ひびき ひびき Copyright 木立 悟 2006-06-23 21:35:54
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