「 蹴球時感、一。 」
PULL.







奇術には、
タネもシカケも、
ある。
だからこそ、
再現できるのだ。




前任者のTは、
こう言った。

「わたしの教則本は、
 五百ページある。」

だが実際には、
数十ページしか、
なかった。

それでもTは、
二つ勝って一つ分けて、
十六まで残った。

では、
今のZの教則本は、
何ページあるのだろうか?。

そもそもZは、
監督としての教則本を、
開いたことすら、
ないのかもしれない。


ブラジルの十番。
それは、
少年時代の憧れであった。

セレソンの十番。
選手として、
五百ページどころか、
五百冊の引き出しと深みがあった!。


悲しいかな、
監督としての、
野心を持つのが遅すぎた。

十番を背負わない、
唯のZは、
遅すぎたのだ。




カイザースラウテルンの、
芝の戦場では。

Hの銃には、
弾が六つ。

Zの銃には、
弾が一つ。

ロシアンルーレットなら、
Zの勝ちだが、
撃ち合いになれば、
どちらが勝つか。


それは確率で解ること。


ニュルンベルクの、
芝の戦場。

Zは、
どれだけのタネとシカケと、
ページと弾を持って、
征くのだろうか。




マジック。
魔術はいらない。
奇術が必要なのだ。












           了。



散文(批評随筆小説等) 「 蹴球時感、一。 」 Copyright PULL. 2006-06-17 10:00:41縦
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