いのちのいる場所
前田ふむふむ

遠ざかる青いカンパスの咆哮が、
夜の鋭い視線に切り裂かれて、
街は、暗闇の静脈を流れるひかりのなかで、
厳かに再生されてゆく。
落下し続ける星座の森が、映し出されている、
高層ビルの滑らかな皮膚――
月を抱きかかえて、
煌びやかな滴る音で満たされている。
書き込まれる痩せた川面――
揺れながら冷たい都会の劫火が浮かび上がり、
街の瞳孔がときめいている。

目隠しをした盲目の空に、
高々と響く高速道路の剥き出しになった唸り声。
海を晒している月が粉々に鋏をいれた
走行するライトの先端が閃光する厳粛さ。
乾いた都会が滑りながら塗されてゆく。
その片隅の誰もいない公園で、浮き上がる砂場の寂しさ。
溶け出してゆく滑り台。
隆起するベンチの孤独な音の匂い。
彼らは、見つめられることを待ち望み、
沈黙しているいのちの新芽が、汗を昂ぶらせてくる。
見えているものは、いく度も、過去に呑み込まれて、
後退した輪郭を際立たせながら、
痛みのない言語の廃墟に傷口を、埋めている。

試されている印象、いのちの音階たち――

曲折した眼差しが、わたしを揺さぶり、
一本の直線から、幾重の曲線になり、
やがて、柑橘の裂けた生々しい顔色で、
液状に堆積し続ける、暮れゆく水底のなみだの一滴から、
赤く滴る空の枝の裂け目から、
白く染まった闇を輝かせて、深く呼吸している。

深いためいきが酩酊している――眠る空の寝台に、
かなしみの羊歯が繁茂する――闇を染め付ける都会の壁に、
原色の感性が、瑞々しいくちびるを這わせてみる。
繰り返されるいのちの波頭が、霧雨に沈む
ひとみのなかで、赤々と燃えている。

浮上するいのちの意匠を辿るわたしは、
呼気を高めたあなたの稜線を、
青い索引として束ねた季節が、刻まれた地図を広げて、
みずいろの湧き水のような視覚を、飲み干した処女地が、
暗闇の裾野から、浮かび上がってくるのを、
静かに、手繰り寄せながら、
おもいでの葦がいちめんに茂る、湿潤な平野を握る、
この掌のなかで、
小さく、柔らかな感激を浸すのだ。



自由詩 いのちのいる場所 Copyright 前田ふむふむ 2006-06-16 21:06:51縦
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