ひよこ豆
水在らあらあ


お前にそっくりな
ひよこ豆をゆでる

おまえにそっくりな
ちいちゃな鉤鼻と
これまたおまえにそっくりな
ちいちゃなおしりがついている

圧力釜なら早いが
ああ、
それはぜんぶおまえでありうるから
俺はゆっくりゆっくりゆでる
ゆっくり

ゆっくり

しかし
あれだ
なあ、おかしなもんだなあ

俺さ、イギリスで
キリギリスみたく生きてた頃はいつも缶詰食ってて
戦場だからここはなんちって
ものすごいあほで
うぶでちんちんで

ひよこ豆、教えてくれたのは、そん時の嫁さんでさあ
占い師で
ピグメントからしか絵かけん画家で結構それで
ピグメントとかだいぶ勉強したよ

小さい頃からカード切ってて
実家のニコシアが真っ二つに裂かれた
戦争の話を
地下室に隠れたときの話を
してくれた
息を潜めて

何年も経ってから分かったけど
戦争はそういった細部で
思い出で
人は誰も下手に強いし
誰だってその先に行きたいからさ
細部におさまって
思い出になっちまって
だからさ
心臓の壁に固まって残って
普通に機能したってもう正常じゃなくて
それは本当にただ
悲しいだけで
なんだか
卑怯です


でも、

なあ、ふしぎだなあ


潔癖な菜食主義者だったあいつが教えてくれた
ひよこ豆をゆでるのが
それが
それが楽しいんだ

ある朝いなくなっててさ
義母からは国際電話で悪魔呼ばわりされて
ちょっとしばらく教会行けんかったわ
信仰とかないのにね
おかしいね

俺はあんなにくやしかったのに
置き去りにされて
あんなにくやしくてくやしくて仕方がなかったのに

なかったことにしたかったのに

あいつに、
手紙書いてもいいかと思うんだ
俺は元気だって
それと、ひよこ豆のことを

だって
おまえにそっくりなんだ
それを俺は大切にゆでて

ゆで上がってみんな幸せそうに湯気立ててるところを

ひとつぶひとつぶ、

見つめながら

いただくんです




自由詩 ひよこ豆 Copyright 水在らあらあ 2006-06-16 01:46:56
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