雨にさらわれたあしたへ
あおば



ジンジャーエイルでいいです
知ったかぶりして注文したら
それはどんな味がするのかな
一杯回してくれないかね

亡くなったお祖父さんに冷やかされた

お祖父さんは
お酒が好きで
ちょっと出かけていっては
升を傾けて
さも美味しそうに喉を鳴らしてから
猫のようににっこり笑い
ゆっくりと丘を登って
夕日の入るのを見回して
それから
仲良しの家に寄って
なにか話をしてから
少しまじめな顔をして
帰ってくる
ジンジャーエールなんて
知らなかったはずだ

大河小説が好きで
目を悪くしたという母は
名前くらいは承知していたはずで
その証拠に
台所の隅には
清酒のビンが隠してある
疲れたときは
内緒で一口飲んで
それから晩の支度に取りかかる

戦争に行ったお父さんは帰ってこない
バナナの木の下で大きな顔をほころばせ
腕組みしている写真があって
美味しそうなバナナを食べて
元気に行軍しているのだと
聞いていたのです

バナナはしばらく食べておりません
急に雨が降ってきたので
お祖父さんは
ちょっとそこへも行けなくなって
腕組みして南の空を眺めていると
生まれたばかりの姉が
ぎゃーぎゃー泣き出して
お祖父さんは抱きかかえ
もうじき生まれることになっている
私の方を
少し困った顔をして見つめてた

生まれたのは
お祖父さんが亡くなった翌年で
お父さんは少しおかしくなって
お母さんは病気になって
急に雨が降ってきたのに
傘を持って学校に
誰も迎えに来てくれません
その点に於いては
今も変わりませんがと
ぼやいたら
不思議そうな顔をして
こちらを向いた人がいて
黙って
ジンジャーエールを
回してくれた
お祖父さんの仕草に
そっくりだと
お母さんが呟いた
お父さんは
照れくさそうに頷いて
なにもいわない

うるさく泣きわめいていた
お姉さんは
あおばの話は訳が分からないと
テレビの方に向き直り
明日の天気予報を眺めてる
明日の天気も気まぐれで
猫が鳴いても雨が降り
知らん顔して傘を差す






未詩・独白 雨にさらわれたあしたへ Copyright あおば 2006-06-08 01:25:53
notebook Home 戻る