ひとつだけお願い
ふるる

月光を浴びて生まれた一人の少女
その唇から
言葉がツタのように伸びてからまり
あの家を覆ったの

家の中には
青白い顔をした少年が一人
小さな椅子に座っていて
コーヒーミルを回していたの

ミルでは小さな星たちがプチプチとくだかれて
その音はきれいな音楽となり
甘い温かい雨のように降り注ぎ
床や屋根を濡らしたの

雨を注がれた少女のツタは
青々と茂り大きな花を咲かせ
その香りで街中の人がうっとりとなり
子供を大切にしはじめたの

むずかる子にはおいしいおかし
泣いている子はぎゅうっとだっこ
笑わない子はくすぐって
寂しい子なら遊んであげる

大切にされた子供たちは
やがて恋をし子を産んで
その間にも雨のように
きれいな音楽がプチプチと降り注いだの
それは生まれた赤ちゃんたちを優しく濡らしたの

赤ちゃんたちは手をたたき
小さな風がおこり
その風に乗ってきれいな音楽は
外国にいって
降り注ぎ

外国のツタは
青々と茂り大きな花を咲かせ
その香りで人々はうっとりとなり
手にした武器をそっと下ろし
かわりに子供たちを抱っこしたの
それで
生まれてからずっと泣いてばかりいた子供たちが
はじめて笑ったの

ええそうなの
月光を浴びて生まれた少女は
私のお母さん
青白い顔をした少年は
私のお父さんなの

これで私の話はおしまい

でもねえ ひとつだけお願い

嘘でも
怒らないでね



自由詩 ひとつだけお願い Copyright ふるる 2006-06-07 12:29:07縦
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