宮廷詩人
千月 話子


言葉を乗せた花びらの
来る上空から
甘い香りが立ち込めて
手の平は夢遊にひらめき
高く 高く 開くよ


ワタクシの生きた
気の上で回れ 花吹雪


ら行は霞んだ空を瑠璃色に巡り 巡りて
ま行から熟れた桃の実を頂きましょう
西洋は憧れの 高い塔から塔へ
ミント・ベルの鐘を鳴らし
ワタクシの小さな部屋と
開かれた薄紫の便箋に
柔らかな光りとなり
やって来ては
麗しき言霊
並べ行く


花添う言葉受け止めて
無我に震える この耳に
入り込むな 現(ウツツ)よ
それは ワタクシの書きかけの詩
それは ワタクシの描きかけの絵画
それは ワタクシの未完の曲 を
汚して行くのだけれど
それさえも朽ち果てる花弁の
美しさだと 写し取り
この手で握り潰しては
滴らせ混ぜ入れて
美しく乱舞する
整うた紙片 虚構の上で


黒髪の 華やかな貴婦人よ
生まれたばかりの詩集を
あなたに贈るけれど
並べられた滑らかな文字を
目で追うな
その か細い指で凹凸を
なぞっては引き千切り
高く高く 舞い散らせておくれ


ああ、その屈辱は上空で
輝きの無い星屑になり
高笑いする あなたの
青い扇の上で賞賛されるだろう


(ワタクシの ワタクシの
 つたない詩も
 高尚になり果て堕落する)


美しきことに身を置いて
横たわる冷たい
大理石の光る床の上
とろけそうな瞼を半開きして
差し伸べるワタクシの手の平に
黒ビロードの飾り帽子の
蝶の羽根の触れる午後


光りの庭は 花を奪って





自由詩 宮廷詩人 Copyright 千月 話子 2006-06-04 23:40:49縦
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