夕焼けのポケットさん
AB(なかほど)

   


まだ公園も整備されてなくて
材木置き場で資材主の目を盗んで遊んでた頃
もうお家へ帰ろうかという時間に
畑から帰る吉じいは子供達を集め
動物の真似をさせては
これは猿の薬、これは犬の薬、これは猫の薬と
ズボンの右のふくらんだポケットから
アメリカ色のミルクキャンディーをくれた
そういえば左のポケットもふくらんでいたけれど
僕らは右のポケットしか見ていなかった
それから
吉じいの引く水牛の姿もなくなって
街の予備校へ通ったり
基地の中や夜の街や内地で働いたり
それでもたぶんみんな
吉じいのくれたミルクキャンディーを忘れてないよ
僕らは僕らなりに
左右のポケットにいろんな物を押し込みながら
夕べ
いつまでもアメリカ色のキャンディー
だとばかり思っていた左のポケットから
バイオレットが出てきたよ
吉じいの好きだった煙草だ
親父達は何かに憧れてアメリカ煙草を吸ってたけど
吉じいはいつも
僕らの動物の真似を見ながらこれを吸っていたんだ
美味かったのか?
こんなにも舌がしびれそうなものが
僕は
内地煙草に慣れてしまったから
とても飲めない
けど そのまま
そのまま 左のポケットに押し込む
と 
そこから夕焼けが



  


自由詩 夕焼けのポケットさん Copyright AB(なかほど) 2004-02-20 02:15:10
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夕焼けが足りない