吊り橋を渡る、僕は帰らない
たりぽん(大理 奔)

また腐りかけた吊り橋だ
いつもこうやって
たどり着く先で
誘う危険は
谷奥からのそよぎに共振する

   銀河を流す暗い川には
   大きなわにが寝そべり
   冷たい水に足を濡らすと
   すり寄ってきて
   右足からおいしく食べるのが
   彼らの流儀

魔除けに、と持たされた
紫雲母はもう食べきってしまい
いつもの傾いたバランスで
足をかけると
吊り橋の揺らぎは共振する

   橋にはいつも名前が付いていた
   なにか大切な名前が付いていたが
   酒に酔った父親どもは
   よくあることだからといって
   連呼して、忘れては
   右足からわにになっていく

微かに約束された到着地は
何も約束しない
へんぴな経由にすぎないのに
命を賭して
いつもの傾いたバランスで
  
大地を取り戻す
さいごの一歩の手前で
忘れ物に気がついても
禁忌を犯し、振り向くな

背中でごうと風が唸っても
そんなに悲しい顔は
ここでみせちゃいけない




自由詩 吊り橋を渡る、僕は帰らない Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-06-04 18:37:44縦
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