真夏の航海
前田ふむふむ

風に焼かれたひかりが、しわがれた午後を蔽い、
燦燦と隆起する曲線から彫りだされる、
涼やかな乾いた空は、
純情な顔をした新世紀の趨勢を、見せ付けている。
その顔をかしげた瞳孔の庭園のなかには、
過去の噴水から湧き出ている、
変わらない讃歌が、双方向に伸びて、
濃淡を極めた蛇行した抒情の束を、
滑らかに際立たせてゆく。

競りだした息吹を、深く励まして、
剥きあげた時の先端に、降りしきる熱狂の踝は、
走り続ける半島の痩せた草木を、
艶やかな立体の幾何学に浮かび上がらせている。
その楼閣の上を、飛べない空が、
突き刺さる雲の裂け目から
滴りおちて、わたしの脳裏のなかに流れていく。

海――航海の夏が、溶けた羅針盤のなかを走っていく。

あなたの白髪の涙は、流れることなく、
燃え尽きた日にとどまり続ける、
空白の手紙のなかで、
青い軌跡になって、擦れているインクに隠蔽されたまま、
白骨の浜辺をさ迷っている。
あなたの願いだった叶えられない
赤い森に埋もれている恋人との対面が、
ふくよかな灯火を残して、
わたしの汗の深みのなかで光っている。

積み重ねた記憶は、その時間だけ薄れてゆき、
真水の音を寂寞と響かせているが、
海のやわらかい背中は、
わたしに、何も終わっていないことを告知して、
沈みこむ血液に、過去の濃度を注いでいる。
溢れてくるかなしみ、止まっていく過去。

わたしの航海は、真率な距離を残したまま、
北に進路を変えてゆく。



自由詩 真夏の航海 Copyright 前田ふむふむ 2006-06-03 22:14:36縦
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