遅れてきた青年
前田ふむふむ

終りのない雨が降り続く若い群島の
決して更新されない、
カレンダーに刻まれた記念日が忘れられる夜、
過去を映さない鏡のなかの燃え立つ暗闇を、
瞑目する叙事が、鈍い輝きを浮き立たせている。

遅れてくるわたしの座席は、すでに無く、
朽ち果てた足に支えられて佇立する、
わたしに与えられる場所の影が、
場所の無存在をしめして、
過去と名乗る白紙の色に染まる
単調な散文的な映像を、遡りながら虚ろに眺めている。

わたしの声は、渇いた壁に向かって、ひたすら、
梱包される言葉の欠片を、吐き出して、
意味が直立しない萎れた風俗を炙りながら、
濁り水のなかで時事をかき混ぜている。

わたしの手は、荒廃する孤独者の感覚を
発信して、学び飽きた、
寒々とした砂漠に埋もれた世代を、粉々に砕いている。
だが、わたしには、喉を潤す自由は与えられているが、
渇きを癒す飲み込む水がない。

先を行く者たちの、
燃え尽くした青い夜会の残り火の囁き。
そのあとを、憧れとも、諦めとも付かぬ、
遅れてきた経験が、若い石棺の天蓋を、
流行の衣装を着て、すべり続けてゆく。

わたしは、この新しい王冠で飾られた時代の、
蒸し焼きの喜劇を、冷血な悲劇を、
なぞるように、ささやかに興じてみて、
うすい顔の自画像の愚かさを晒しているが、
滔々と湧き出る新生の噴水が固まる広場で、
滝のような叫びは、立ち止まることは無く、
届くこともない、遅れた前衛の顔を赤らめて、
受ける恩恵を渡されることは無く、
退廃を立ち上げて溶けつづける橋梁の上を、
淡々と泳ぎつづけるのだ。



自由詩 遅れてきた青年 Copyright 前田ふむふむ 2006-06-03 08:15:03縦
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